シンリード@理系読書

理系大学院生による書評と読書感想文

「AI vs. 教科書が読めない子どもたち 」シンギュラリティは来ない!?【要点まとめ・レビュー】

AI vs. 教科書が読めない子どもたち

AI vs. 教科書が読めない子どもたち
満足度 ★★★☆☆

AIは今後の働き方について絶対に関わってくると思うので知っておきたい。

【感想】

日本の労働力の質とAIの労働力の質が似てきている。現在の教育で培われる能力というものは、テストで良い点をとるための暗記や表面的な理解であり、これらはAIが最も得意なことなのだ。このような中では、AIができることとできないことをしっかりと把握し、AIにできないことができる人間を創出していくことが大きな課題である。

シンギュラリティは来ない。これは、AIが人間の能力を超えることは私達が生きている限りは無いということ。とはいえ、私達の労働の半分はAIにとって代わる。AIの進化によって新しい仕事も誕生するが、それはAIにできない仕事なので結局できる人間も限られてくる。著者は東ロボくんという「東大合格」を目指したAIの研究をしており、MARCHレベルであれば合格できるが東大合格は一生無理だという。AIは数学の言葉に置き換えられないことはできない。スパコンが必要というわけではなく、意味を記述できないという問題がある。AIには大量の教師データが必要で、やれることも一定の枠組みの中で限られている。そんな中残る仕事の共通点としては、コミュニケーション能力や理解力が求められる仕事、人間らしい柔軟な判断が求められる肉体労働などだ。

それに対して現在の子供達はどうか。著者はRSTテストというものを用いて基礎読解力のテストを行っている。結果から、高校生の半数以上は教科書の記述の意味が理解できていない現状であることが分かった。論理的な読解と推論の力は入学できる大学のレベルにも大きく影響するという。また、学生はコピペレポートやフレームが決まったドリルをすることも多く、表層的な理解しかできていない子も多い。つまり、AIが得意なことばかりAI以下のレベルでできるようになっているのだ。ITなど騒がれているがITに大事な行列の分野も指導要領から消えてしまっている。教育制度の面からも非常に危うい現状ではないかと思う。

デジタル社会では買い手と売り手の間の情報の非対称性がなくなり「一物一価」が速く達成されていく。レッドオーシャンで戦っている企業達は利潤がゼロに近づくまで価格競争を繰り広げることになりかねない。そんな中では、ブルーオーシャンで小さくても需要が供給を上回るシステムを作ることも有効な手段に感じる。AIは自ら新しいものを生み出さず、単にコストを削減するだけ。AIが人間と同じ知能レベルに達することは薔薇色の世界であることを覚えておきたい。しかしそれでもこれまでとは明らかに異なるイノベーションであり、人間にしかできないことは何かを見極めてやりきることが大事に思う。