シンリード@理系読書

理系大学院生による書評と読書感想文

「実行力」橋本徹という男 【要点まとめ・レビュー】

実行力 橋本徹 著

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知事やら市長やら数多くの組織のリーダーとして行動してきた人の考えは非常に興味深い。

【本書概要&感想】

 本書では主にリーダーに焦点を当てている。組織のリーダーに必要なものは、 部下ができないことをやれるかどうか。いい上司止まりになってないか。 「仕事をやり遂げた」ことへの信頼関係があってこその人間関係が大事。

 マネジメントとして特徴的なのは、周囲に反対意見を言う人をあえて置いて、十分に言わせ、最後には決まったことに従ってもらうということ。リーダーは、誰も気づいていない大きな問題点を見つけ、最後は決断していく。このとき正解はなく、誰も決めることができないことを決める役割である。

 橋本さんの知事や市長のエピソードからは「口で言っても動かないが、何かを実現させると劇的に動く」といったことが感じられる。そして彼が大事にしていたことは、ビジョン、実行プラン(ソフト)、組織体制(ハード)をワンセットで進めること。かつてイギリスが実行プランなしでEU離脱の投票を行い、まさかの過半数を上回り、今は相当グダっている事象を反面教師としてあげている。

 意見は1つだけのメリットを述べてもよく分からないので3つ(対極・中間)持って行くことや、部分最適でなくトップの視界を想像して全体最適を考えること、日々のニュースに対して持論を持ち、問題点や論点を日々見つけ出すことなどは真似していきたい内容だった。

「ダントツ企業」超高収益を生む7つの会社の物語【要点まとめ・レビュー】

ダントツ企業 宮永博史 著

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意外に知らない超高収益を生む企業があるということで気になります。

【本書概要&感想】

本書で登場する企業は7社。それぞれ紹介したい。

セブン銀行

 セブン&アイの事業の中で最も高い売上を誇るのはやはりコンビニ事業。しかし、営業利益率を見ると最も高いのは金融事業なのだ。

 セブン銀行の顧客は銀行であり、利用者でなく銀行の払う手数料で稼いでいる。銀行の一般的なATMは800~1000万程度かかるがセブンのATMは200万程度であり、導入コストが極めて低いという強みも持っている。また、コンビニの売上金をそのままこATMに入れることで交換費の節約もできる。さらには、消費者金融という顧客も増えたという。これは、コンビニだと人目を気にしなくていいので返しやすいといったことが理由である。

ネスレ

 キットカットやコーヒーなどで知られる企業。

 中でもネスカフェアンバサダーはかなり成功している。マシンを無料で企業に提供し、その企業の社員が同僚などにコーヒーを売り、回収した代金をネスレに支払うというもの。ネスレの顧客自身がアンバサダーとなっているのが最大の強み。ほぼボランティア状態であり、コーヒーを売るための人件費などがかかっていないのだ。今ではネスカフェアンバサダーに応募している人が国内に35万人もいるという。B to C@Bという構造とも言える。自販機やコンビニなどとはセグメントの違う「家庭」や「会社」に新規顧客を開拓していったことも強みである。

 イノベーションアワードの実施も魅力的。焼きキットカットもこの中で生まれた。実は大賞は民主主義で選ぶのではなく、高岡社長の独断で選んだという。最初は社員の不満もありながら、実際に世に製品が出てみると見事な売上を達成し、役員の考え方も変わっていったという。高岡社長の美の才覚を感じさせられるエピソードである。

アイリスオーヤマ

 様々な商品カテゴリーを持ち捉えどころのない会社。最近進出した家電事業がすごい。宮城の本社では人材が集めれないとみて大阪に新規に作り上げ、また東芝やパナソニックからの人材流出を取り込んだことが強みとなった。日本の家電メーカーの多くは衰退して価格競争に陥っている印象があるが、アイリスでは 売り頃価格を先に設定して、10%以上の利益が出るようなものしか作らない。圧倒的な商品開発スピードが持ち味で、工場の3割を開けることで迅速なライン切り替えにも対応している。

中央タクシー

 長野県のタクシー会社。タクシー業界の離職率が20~30%である中、この会社は1.5%。またタクシー一台あたりの月平均は40万である中、中央タクシーは100万であるという。会長がMKタクシーから学んだという、超丁寧なサービスが圧倒的差別化を生んでいる。

ウェザーニュース

 法律が変わり気象予報が国だけでなく民間も参入できるようになった。 気象情報サービスの市場規模は300~350億円と言われる中、140億もの売上高を誇るリーダー企業。

 現社長は元々は船のチャーターをしていた人で海についてよく知る人物だった。最初はオーシャンルーツという海の天気予報の会社に転職。しかし、そこにいるのは気象屋ばかりで海についてよく知るものはいなかった。海の厳しさを知る彼は、安全航行と経済性を両立できるようなルート提供を行うことで会社を成長させたした。そんな中、弁当屋やスタジアムなど色々な顧客が増え、それらをまとめ彼はついにウェザーニュースを設立する。

 気象庁がみんなの気象台だとすれば、ウェザーニュースはあなたの気象台がコンセプトである。それぞれの部門にはリスクコミュニケーターという専門家もいる。天気予報には規制も多く洗濯指数という用語も生み出したという。新卒採用が社長面接から始まるということや、給料はオープンで社員の職格と年俸が公開されているというのも特徴的。社長は新入社員の7倍で決まっている。

ディスコ

半導体ウエハを「切る、削る、磨く」技術において他者の追随を許さない。100%国内生産にも関わらず営業利益率は23.4%。砥石メーカーとしてスタートし、加工装置事業も手掛ける。インテルの重要なサプライヤー。組織全体にディスコバリューという価値観を浸透させている。ディスカという仮想通貨を用いて仕事のオークションが生まれ、「痛み課金」や「ウィル報酬」といった制度もある。今はウィルという通貨名らしい。

ARM アームホールディングス

 2016年にソフトバンクが3.3兆円で買収した謎の会社。イギリスのケンブリッジが本拠地。半導体、中でもCPU(中央演算処理装置)を提供。

 CPUはソフトウェアと密接な補完関係にあることにより、市場ごとに世界的レベルで寡占化が進んでいる。 ARMのCPUはゲーム機器やテレビなど様々な分野に採用されており、中でもスマホ市場では95%のシェアを誇っている。ARMはCPUの設計データを「知的財産(IP)」としてライセンス提供しており、形ある製品は提供していない。よって、普通なら競合と考えられる企業たちが顧客なのである。 営業利益率は驚異の50%であり、インテルの30%を大きく上回っている。

 契約時のライセンスフィーと販売数量とチップ単価に応じたロイヤルティーが収入源。また、LSIの集積度が上がるとロイヤルティーは増加する仕組みとなっている。

「ハートドリブン」うんこミュージアムでも有名"アカツキ"社長の独自哲学【要点まとめ・レビュー】

ハートドリブン 塩田元規 著

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アカツキという会社はあまり知らなかったが、NewsPicks本として出版されて非常に面白そうな印象を受けたので読んでみた。

【本書概要&感想】

 この本は"感じて分かち合う本"である。本書では、タイトル通り心を原動力とすることに価値を見出している。ゲームはまさに人が感情価値にお金を払っている最たる例であり、 アカツキがゲームからスタートしたのもこのためである。 さらにゲームの中でも正解のあるRPGでなく世界を自分で作っていくマインクラフトなどのゲームが人気となってきている。

現在、 世界のには以下のような3つの変化が起こっている。

  1. 便利 ⇒心の時代へ
  2. 画一的な価値観 ⇒ 多様な価値観を認め合う時代へ
  3. 透明性の加速。Doing ⇒ Beingの時代へ

このような中では感情的価値が大切になってくる。アップルのCMでは「何をやっているか」でなく「なぜやっているか」をひたすらに伝えたという。働くことも感情的価値を重視する時代になりつつあり、給料や福利厚生を見るだけでなくワクワクする方へ転職する人も増えてきている。そして、ネットの広がりによって価値観を理解する力を育むことができるようになり、共感できる誰かとも繋がれる時代であるため世の中に合わせて生きる必要もなくなり、自由に自己表現ができるようになってきている。このような時代、自分の内側を丁寧にあつかいインサイドアウトで生きていくことが大切になってくる。 ダメな自分も自分の一部であると認めることや、理解と同意を分けるといった考えも持っていたい。

 本書を読んでみて近い印象を受けたのは"世界のエリートはなぜ美意識を鍛えるのか"という本。論理的に感情価値を読み解いたこの本に対して、ハートドリブンは塩田さんの実体験を通して、苦悩や幸福を共に感じながら共感とともに感情価値の重要さをイメージできるような本であると思う。分かち合える人を一人でも持つことが重要に感じる。

「宇宙に命はあるのか」想像力が掻き立てられる!【要点まとめ・レビュー】

宇宙に命はあるのか 小野雅裕 著

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宇宙は知らないことだらけなので興味が出た一冊。

【本書概要&感想】

 本書を読む上でのキーワードは「イマジネーション」。この本と共に宇宙という広大なスケールでイメージを繰り広げることができる。

 人類が宇宙に行くまでの歴史はフォン・ブラウン無しでは語れない。彼は宇宙に行くロケットを作るために、軍事用のロケットして開発を行うこともあった。そして、1972年に人類は初めて月に降り立つ。それから45年間は誰も行っていない。そして地球外生命体も未だに見つかっていない。それでも生命が存在しうるオアシスは存在するというのは非常に興味深い。 まだ数千億個もある星のほんの一部しか確認できてないようだが、フライバイ・オービター・ランダー・ローバーなどの探査方法を駆使して宇宙の探索は続いている。

 他にも、宇宙へ行くには秒速7.9 kmまで加速する必要があるというこや、 175年に1回しかない4惑星が並ぶチャンスを掴んでボイジャー1号2号が海王星へ音楽レコードを持って出発したことなど、普段考えない規模の大きさや数値に脳が刺激されたように思う。

 このような進化は、イマジネーション無しではありえなかった。イマジネーションとは「知らないを知る」ことであり「人が想像できることは全て実現できる」といったことを考えさせられる一冊であった。

「ファナックとインテルの戦略」工作機械の革新史【要点まとめ・レビュー】

ファナックとインテルの戦略 柴田友厚 著

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ファクトリーオートメションに興味があるため読んでみた本。

【要点&感想】

 ファナックのCNC装置には、インテルのMPUというソフトウェアで制御する半導体デバイスが導入されている。これはIBMなどがパソコン業界にMPUが導入される6年も前のことである。しかしMPUの導入には、小型化やコスト削減、柔軟性工場などのメリットもありながら、当時は技術的な不確定性もあって性能劣化のリスクもあった。米国などの大企業には航空機産業なども多く、性能劣化を避けてMPU導入には消極的であった。しかし、日本には中小企業も多く、MPU導入に積極的であったのだ。ファナックからのMPU需要は、インテルが当時主力としていたDRAMからMPUへ事業をシフトさせる決断の要因ともなった。

 そして日本のNC装置の成功要因としては「モジュール化」が大きい。標準化と特注化の両立を成し遂げたのだ。また、 NC装置と工作機械は補完関係にある 。そこで「NC装置と工作機械を自社で一貫して作るかどうか」といった分岐が生じる。米国では一貫体制の企業が多い中、ファナックのNC装置は工作機械を扱う多くの中小企業へ売られるのである。これが、見事にハマったのだ。多くの企業に売るために、互換性の高さを意識して作られ、さらには、それぞれの企業から使用時のフィードバックが返ってくるため、改善点も大量に見つかって相互に強化されていくからだ。DMG森精機は、NC装置メーカーと連携を顕密にとることで、工作機械メーカーとしては後発ながらも成長を遂げた。そして、パソコンとCNC装置の融合に成功し、NC装置メーカーごとに操作方法が異なるという問題も解決した。

 工作機械の革新史から、技術転換時には「後の者が先になり、先の者が後になる」という産業秩序が起こりうることが見て取れる。これらの革新は、スタートアップでなく既存企業がの新規事業として始まったのも覚えておきたい。そして現在の注目分野である、自動車本体と自動運転装置の関係性もNC装置と工作機械の関係に近い。過去の教訓から、自動運転装置専門の方がうまくいくのかもしれない。そして中国政府が掲げる「中国製造2025」の主要10分野にはCNC工作機械も入っている。工作機械はハイエンドなものを輸入し、NC装置が着かないローエンドなものを輸出するといった状況である。NC技術が日本に追いつくのは楽観的に見るとまだまだであり、現状では中国の工作機械の生産が増えるにつれて、日本のNC装置の需要が増えるという分業構造が維持されるだろう。これは、補完材に着目することで共存共栄構造を作り出す可能性を示唆している。