シンリード@理系読書

理系大学院生による書評と読書感想文

「ダントツ企業」超高収益を生む7つの会社の物語【要点まとめ・レビュー】

ダントツ企業 宮永博史 著

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意外に知らない超高収益を生む企業があるということで気になります。

【本書概要&感想】

本書で登場する企業は7社。それぞれ紹介したい。

セブン銀行

 セブン&アイの事業の中で最も高い売上を誇るのはやはりコンビニ事業。しかし、営業利益率を見ると最も高いのは金融事業なのだ。

 セブン銀行の顧客は銀行であり、利用者でなく銀行の払う手数料で稼いでいる。銀行の一般的なATMは800~1000万程度かかるがセブンのATMは200万程度であり、導入コストが極めて低いという強みも持っている。また、コンビニの売上金をそのままこATMに入れることで交換費の節約もできる。さらには、消費者金融という顧客も増えたという。これは、コンビニだと人目を気にしなくていいので返しやすいといったことが理由である。

ネスレ

 キットカットやコーヒーなどで知られる企業。

 中でもネスカフェアンバサダーはかなり成功している。マシンを無料で企業に提供し、その企業の社員が同僚などにコーヒーを売り、回収した代金をネスレに支払うというもの。ネスレの顧客自身がアンバサダーとなっているのが最大の強み。ほぼボランティア状態であり、コーヒーを売るための人件費などがかかっていないのだ。今ではネスカフェアンバサダーに応募している人が国内に35万人もいるという。B to C@Bという構造とも言える。自販機やコンビニなどとはセグメントの違う「家庭」や「会社」に新規顧客を開拓していったことも強みである。

 イノベーションアワードの実施も魅力的。焼きキットカットもこの中で生まれた。実は大賞は民主主義で選ぶのではなく、高岡社長の独断で選んだという。最初は社員の不満もありながら、実際に世に製品が出てみると見事な売上を達成し、役員の考え方も変わっていったという。高岡社長の美の才覚を感じさせられるエピソードである。

アイリスオーヤマ

 様々な商品カテゴリーを持ち捉えどころのない会社。最近進出した家電事業がすごい。宮城の本社では人材が集めれないとみて大阪に新規に作り上げ、また東芝やパナソニックからの人材流出を取り込んだことが強みとなった。日本の家電メーカーの多くは衰退して価格競争に陥っている印象があるが、アイリスでは 売り頃価格を先に設定して、10%以上の利益が出るようなものしか作らない。圧倒的な商品開発スピードが持ち味で、工場の3割を開けることで迅速なライン切り替えにも対応している。

中央タクシー

 長野県のタクシー会社。タクシー業界の離職率が20~30%である中、この会社は1.5%。またタクシー一台あたりの月平均は40万である中、中央タクシーは100万であるという。会長がMKタクシーから学んだという、超丁寧なサービスが圧倒的差別化を生んでいる。

ウェザーニュース

 法律が変わり気象予報が国だけでなく民間も参入できるようになった。 気象情報サービスの市場規模は300~350億円と言われる中、140億もの売上高を誇るリーダー企業。

 現社長は元々は船のチャーターをしていた人で海についてよく知る人物だった。最初はオーシャンルーツという海の天気予報の会社に転職。しかし、そこにいるのは気象屋ばかりで海についてよく知るものはいなかった。海の厳しさを知る彼は、安全航行と経済性を両立できるようなルート提供を行うことで会社を成長させたした。そんな中、弁当屋やスタジアムなど色々な顧客が増え、それらをまとめ彼はついにウェザーニュースを設立する。

 気象庁がみんなの気象台だとすれば、ウェザーニュースはあなたの気象台がコンセプトである。それぞれの部門にはリスクコミュニケーターという専門家もいる。天気予報には規制も多く洗濯指数という用語も生み出したという。新卒採用が社長面接から始まるということや、給料はオープンで社員の職格と年俸が公開されているというのも特徴的。社長は新入社員の7倍で決まっている。

ディスコ

半導体ウエハを「切る、削る、磨く」技術において他者の追随を許さない。100%国内生産にも関わらず営業利益率は23.4%。砥石メーカーとしてスタートし、加工装置事業も手掛ける。インテルの重要なサプライヤー。組織全体にディスコバリューという価値観を浸透させている。ディスカという仮想通貨を用いて仕事のオークションが生まれ、「痛み課金」や「ウィル報酬」といった制度もある。今はウィルという通貨名らしい。

ARM アームホールディングス

 2016年にソフトバンクが3.3兆円で買収した謎の会社。イギリスのケンブリッジが本拠地。半導体、中でもCPU(中央演算処理装置)を提供。

 CPUはソフトウェアと密接な補完関係にあることにより、市場ごとに世界的レベルで寡占化が進んでいる。 ARMのCPUはゲーム機器やテレビなど様々な分野に採用されており、中でもスマホ市場では95%のシェアを誇っている。ARMはCPUの設計データを「知的財産(IP)」としてライセンス提供しており、形ある製品は提供していない。よって、普通なら競合と考えられる企業たちが顧客なのである。 営業利益率は驚異の50%であり、インテルの30%を大きく上回っている。

 契約時のライセンスフィーと販売数量とチップ単価に応じたロイヤルティーが収入源。また、LSIの集積度が上がるとロイヤルティーは増加する仕組みとなっている。