シンリード@理系読書

理系大学院生による書評と読書感想文

「父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。」経済の基本が分かる?【要点まとめ・レビュー】

父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。

父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。
満足度 ★★★☆☆

表紙がもう面白そう。難しそうな経済だが、とんでもなく分かりやすいということなので読んでみた。

【本書概要&感想】

基本的には、日常や歴史的な例を用いたり、SF映画や童話などを例えに用いたりしていて、難しい用語もあまり出てこない。だが個人的に"とんでもなくわかりやすい"とは思わなかった。経済について、なんとなくのイメージは持てるみたいな感じ。

本書では「かつてイギリスがオーストラリアを侵略したが、なぜ逆じゃなかったのか」という疑問がまず呈されている。この疑問を解決することが、経済はどのように始まったかについて知るきっかけとなる。かつては「市場」はあっても「経済」はなかった。経済が誕生したのは、農作物の生産によって「余剰」が生まれたのがきっかけ。余剰によって、文字や債務・通貨・国家・宗教など偉大な制度も生み出されることになる。ユーラシア大陸から発展が始まったのは、横長で気候変動が少なく、余剰を生み出すのに適していたから。

価値には、交換価値と経験価値がある。現代では経験価値が軽んじられており、交換価値が市場価格となっている。また、生産の三要素は「生産手段、土地、労働者」であり、それらが突然商品となって交換価値を持つようになった経緯も例を農奴の例を用いて書かれている。このように「市場のある社会」が「市場社会」になる中で、借金が生活の潤滑油となり、このときに利益を目的とするようになる。貸すのは銀行だがそのお金は「どこからともなく、パッと出す」らしい。また、「労働市場」と「マネーマーケット」には悪魔が存在し、単に賃金を一律に引き下げたり、金利を下げたりしても雇用'が増えるわけではない。賃金が下がれば消費者の購買力が下がり、金利が下がると景気が悪い方向に向かっていると予期する人もいるからだ。

個人的に興味が出るのは機械化と経済の関係。機械化は我々の自由時間を増やすようにも見えるが、機械を維持したりテクノロジーに追いつくためにむしろ必死に働いている状況でもある。また、機械化が進むと、多くの富が機械を所有する人たちに集中し、労働者が得られる賃金が少なくなって、物が売れなくなる可能性がある。筆者の考える解決策も多少書かれていた。

収容所のタバコの話では、金利は物価の予測に左右することや、終わりの予感が経済を崩壊させること、政治と経済の関係などを分かりやすく説明していた。地球を救うには「すべてを商品化する」と「すべてを民主化する」という相対した考えがあることや、幸福と市場社会の関係なども書かれていた。市場社会の誕生によって、宗教に変わって経済学が支配・洗脳しうるものとなってきている。そんな中では、経済を専門家にゆだねるのでなく、一人一人が経済についてある程度知って置く必要があるように思う。