シンリード@理系読書

理系大学院生による書評と読書感想文

「 USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?」V字回復の経営【要点まとめ・レビュー】

 USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?

USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか? (角川文庫)
満足度 ★★★★☆

USJってそんなに苦戦しているイメージは無かったのですが,結構慌ただしく成長を遂げてきたことがわかる一冊。

【感想】

USJは2001年に開業し1100万の売上を出した。しかし以降2009年までは売上が減り続けて,700万台まで下がった。そして,2010年に著者の森岡毅が2010年に入社し見事なV字回復を見せる。2015年には1400万の売り上げを記録し,今後も拡大していく。ではなぜUSJは復帰できたのか?森岡さんは何を考え,行動し,変えていったのか。本書で注目したいのは森岡さんのアイデア発想法だ。

USJは「集客アイデアの実験場」である。娯楽ビジネスというつまらなければ衰退する厳しい世界だ。まずやったことは「方向性を間違えたこだわりの見直し」である。映画だけにこだわることを止め「世界最高のエンターテインメントを集めたセレクトショップ」として展開していった。そして規模を拡大するため,USJが打ち立てた3段ロケット構想は以下のよう。

1. 家族連れを取り込む

⇒ ユニバーサル・ワンダーランドの設立 2012年

2. 遠方からのゲスト集客(関西依存の脱却)

⇒ ハリーポッター設立 2014年

3. パークを効率的に運営するノウハウを複数の場所へ展開し,会社を大きくする。

⇒ 執筆当時はまだここまではできていない。だがV字復帰を見せるほどのノウハウは,今後も世界のあらゆる箇所で応用されていく。

このような大きい計画に目がいってしまうが,本当に面白いのはこの間の期間(2011, 2013年)をどう切り抜けるかだ。大きい計画にお金を使っている以上,少額の投資で満足させなければいけないのだ。9回2死でデッドボールでも振り逃げでも出塁しなければいけない感覚。

・2011年 

2011年3月3日,実はUSJの10周年記念。ボルテージが上がった最中に起きた3.11の地震。当然,悲観的ムードの中USJに行って楽しむことに気が引ける人が増えてしまう。そんな中で打ち出された戦略がキッズフリー。そして夏,秋,冬とそれぞれ,モンスターハンターやハロウィン,世界最大のクリスマスツリーなどさまざまな企画で乗り越えていく。

・2013年

実は東京ディズニーランドが30周年の年。関西と関東に3万円の壁があるとはいえどうしても人が流れていってしまう。これに対してまず打ち出されたのが,スパイダーマンの4K3D。さらにここで誕生したのが後ろ向きのライドアクション"ハリウッド・ドリーム・ザ・ライド・バックドロップ"。これらによって危機を乗り越え,むしろ売上を伸ばしていく。

アイデアの生み方

 アイデアを生む確率を上げることが大事。そのためには,目的⇒戦略⇒戦術(アイデア) の順で考える。まずは目的を徹底的に吟味。次にアイデアが満たすべき「必要条件」を考える。また,日本人はゼロからしたがるが,目を外に向けて積極的にアイデアを盗む姿勢も必要である。リノベーションだと思われないくらいの新しい価値を付加すれば良い。そして,自分が経験したりチームに意見を求めたりして情報のストックを増やしてアンテナ力を高める。最後に,どれだけ必死に考え続けられるかというコミットメントが大事。そして,エクセキューション(戦略の詰め)をすることでアイデアを成功へと導く。

アイデアとして「違うことをやるか,同じことを違うようにやる」と単純化できることを知った。とりあえず,日頃からストックを増やしたり,他者のアイデアに触れたりして,ひらめく確率を上げておくことが重要に感じた。